歴史
徳島と香川、県境を越える大満足のカートリップ!/うだつの町並み・うだつ上がる・雲辺寺山頂公園 ・豊稔池堰堤・白栄堂 柳町本店
スポット 1:藍商人たちの栄華を感じる昔ながらの町を散策
うだつの町並み(徳島県美馬市)
徳島から香川へと向かうカートリップのスタートは、徳島の誇る重要伝統的建造物群保存地区『うだつの町並み』から。ここは吉野川の北岸を走る主要ルートだった撫養街道と讃岐方面への街道が交差する交通の要衝。陸路のみならず、吉野川にも面していたことから、阿波藍の集積地としても栄えた脇城の城下町です。明治時代のものを中心に、江戸中期から昭和初期までの建造物が数多く残されており、最大の特徴は“卯建(うだつ)”を持つ商家が多いこと。これは二階部分に隣家への延焼を防ぐために作られた本瓦葺き・漆喰塗りの防火壁で、莫大な費用が必要だったため、成功者の象徴として考えられていました。そこから「うだつが上がる/上がらない」ということわざが生まれたといわれています。
『うだつの町並み』に現存する伝統的建造物は85棟。そのうち一際目立つのがメインストリートである南町通りに建つ『藍商佐直 吉田家住宅』です。かつては脇町で一、二を争う豪商として「佐直」の屋号で知られた藍商人の吉田直兵衛の屋敷で、約600坪という広い敷地に主屋や蔵などが点在しています。玄関から入った広い土間からは帳場へと続く「みせの間」があり、にこやかな番頭さん人形がお出迎え。
『藍商佐直 吉田家住宅』の部屋数は何と25室!立派な床の間や違い棚などを備えた主座敷は、2005年に第46期王位戦第5局が行われたことから「王位戦の間」とも呼ばれています。そこに置かれた盤上には対局のワンシーンが再現されており、将棋ファンならずとも楽しめるでしょう。台所(だいどこ)や中庭なども、当時の大商人の暮らしが垣間見えるため、ゆっくり見学するのがおすすめです。
少し歩いたところにある『正木酒店』も覗いてみてほしいお店の一つ。オリジナルの日本酒「うだつの上がる酒」や徳島県民から“およめさんのお菓子”と呼ばれる「ふ焼き」などが販売されているほか、ちょっとした土産物なども取り扱っています。また、お店の前には「書状集箱(しょじょうあつめばこ)」という明治時代に使われていたポストがありますが、これは今でも現役で使われており、地元の人たちが手紙を出すときに訪れるそうですよ。
歩き回って疲れたら『うだつの町並み』の一角、通りから奥まった一軒家でひっそりと営業している『ワタル珈琲』もおすすめです。お休みしていることも多い隠れ家的カフェですが、美味しいコーヒーとフード、スイーツが待っているので、ぜひ探して出して足を運んでみてください。
スポット 2:築150年の古民家を改装した魅力的な複合文化市庭
うだつ上がる(徳島県美馬市)
『うだつの町並み』のなかでも異彩を放っているのが、こちらの立派な虫籠窓とうだつを持つ古民家。何と一軒の建物の内部に、建築事務所をはじめ、雑貨店や書店、古着屋やカフェ、バーなど、さまざまな要素が詰め込まれており、とても魅力あふれるスポットとして県内外から注目されているんです。その名は『うだつ上がる』。建築家の高橋利明さんが2020年5月に「みんなの複合文化市庭」としてオープンして以来、この重要伝統的建造物群保存地区を盛り上げる一翼を担ってきました。
もともと金融業を営んでいたという築150年の古民家は、高橋さんが自費を投じたほか、クラウドファンディングで資金を募り、見事に生まれ変わりました。最終的には目標額の2倍の金額でゴールしたというエピソードからも、いかに期待されていたかがわかります。
入り口からすぐ左側のエリアに展開されている『WEEKEND TAKAHASHI STORE』では、高橋さんがセレクトしたアイテムが勢揃い。徳島県内各地の優れた製品はもちろん、奈良県香芝市の『Good Job! Center香芝』による張り子の置き物〈Good Dog〉や新潟県燕三条でつくられる剣持勇デザインのカトラリーなど、見ているだけでほしくなる品揃えは、暮らしに重点を置く建築家・高橋さんならではのものです。
こらちは「ほんとひとを繋げていけたらいいな」という店主の思いを具現化した『Phil books』。単行本に文庫本、雑誌やムック、新刊に古本と、さまざまな種類が並んでおり、独自の視点で集められたタイトルを眺めているだけでも心が騒ぎます。一軒の店を借りて運営するのは大変でも、こうした“間借りスタイル”であれば、思いきってチャレンジできるのでは――。『うだつ上がる』を運営する高橋さんは、そう考えています。近年では有志による古本市が開催されるなど、新しい取り組みも始まっており、これからますます盛り上がっていくのではないでしょうか。
スポット 3:天空にある徳島県と香川県との県境
雲辺寺山頂公園(香川県観音寺市)
さて『うだつの町並み』からさらに西へ走ること約1時間強。つるぎ町や東みよし町などを越え、香川県方面へと向かいます。目的地は徳島県と香川県との県境!まずは雲辺寺ロープウェイの山麓駅を目指しましょう。
雲辺寺ロープウェイの山麓駅から山頂駅までは高低差が約660メートル、全長が約2,600メートル。そこを毎秒10メートルという速度で進むゴンドラからは、三豊平野や瀬戸内海はもちろん、中国地方、そして本州と四国を結ぶ瀬戸大橋も一望できるとか。よく晴れた日にはしまなみ海道まで見えるそうですよ。約7分間の道のりでは、四季折々のダイナミックな美しい景色が楽しめます。
雲辺寺山は標高927メートル。山頂付近と平地との気温差は平均して7度ほどあるため、上着は忘れずに持って行った方が良さそうです。雲辺寺ロープウェイの山頂駅を出ると、すぐそこにあるのが徳島県と香川県との県境。徳島県側は四国八十八ヵ所霊場の第66番札所「雲辺寺」の境内、香川県側は、雲辺寺山頂公園の敷地内になっており、多くの来訪者が記念撮影を楽しむフォトスポットとしても有名です。
徳島県と香川県との県境から歩いて数分で到着するのが「雲辺寺山頂公園」。綺麗な芝生が広がる広場には色とりどりの可愛らしいベンチがところどころに置かれているほか、ここでしか味わえない絶景を心ゆくまで楽しむための工夫が凝らされているんです。
その工夫の一つが、芝生の斜面につくられたインスタ映え間違いなしの「天空のブランコ」!大人・子供兼用タイプと12歳までの子供専用タイプの二つが設置されていますが、来訪者の多い日には長い行列ができるのもうなづけます。大空へ向かって漕ぎ出していく写真が撮影できるように、専用のフォトスタンドが用意されているのも嬉しいポイントです。
こちらは「天空のフォトフレーム」。さきほど紹介した「天空のブランコ」と同じく、2020年7月に登場したそうですが、立ち姿でも座っていても撮影できる絶妙のサイズ感。天気が良く、空気が澄んでいれば岡山県あたりまで見渡せる素晴らしい景色をバックに旅の思い出を撮影できます。なお「雲辺寺山頂公園」へ行く場合、注意してほしいのは車で行かないこと。山頂へと続く山道はありますが、慣れていないと非常に危険な上、仮に到着できたとしても公園に駐車場はありません。必ず山麓駅に車を停め、ロープウェイで向かうようにしてくださいね。
スポット 4:国の重要文化財に指定された大迫力のダム
豊稔池堰堤(香川県観音寺市)
徳島県と香川県との県境と雲辺寺山頂公園を満喫した後は、西南へ向かって車を走らせましょう。約10分ほどのドライブで到着した目的地は、柞田川(くにたがわ)上流にある『豊稔池堰堤(ほうねんいけえんてい)』です。ここは知る人ぞ知る観光スポットであり、現在は周囲を「豊稔池游水公園」として一般開放しています。
いかがでしょうか。まるで漫画やゲームに出てくる建造物のようなデザインと迫力!専門的には「石積式5連マルティプルアーチ方式ダム」と呼ばれる形式で、日本で初めてこの方式が採用されたダムであり、農業用としても日本初のコンクリートダムとなりました。1926年から約4年の歳月と約15万人の労力をかけて完成し、1997年には国の登録有形文化財に、2006年には国の重要文化財に指定された貴重な建造物なんです。
見上げるほど巨大な壁から四角く突き出ている部分は「扶壁(ふへき)」と言います。そこに設けられた「洪水吐(こうずいばき)」と呼ばれる穴から、ダムの貯水量に応じて自然調節された水が放出される仕組みになっています。勢いよく水が流れ出る光景を見たいと思ったら、何日かにわたって雨が降り続いた後の晴れた日などが狙い目かもしれません。
築造から半世紀以上が過ぎ、漏水が発生するなどの老朽化が見られたこともあり、1989年から5年間にわたって大規模な改修工事を実施。地域の人々からの「できるだけ外観を変えず、今のままの姿を残してほしい」という要望に応え、今もヨーロッパの古城のような美しい佇まいを残しています。毎年、7月中旬から8月上旬のどこかで行われる「ゆる抜き」も必見。これは田植えが終わるまでの期間に水を供給する香川の行事で、もともと「ゆる」とは、木でつくられた池の取水栓のことを指すそうです。『豊稔池堰堤』の「ゆる抜き」はスケールが桁違い!毎秒4トンもの水が轟音とともに放流されるため、付近には霧のように水しぶきが上がり、ときには虹がかかることもあるそう。多くのアマチュアカメラマンが詰めかけるのもわかる気がします。毎年7月下旬〜8月上旬の平日に開催されていますが、昨今の情勢により中止になっている場合がありますので、ご注意ください。
『豊稔池堰堤』は、柞田川の西側に広がる約530ヘクタールの水田を潤す大切な役割を担っています。また、その恩恵を受けている大野原は、全国有数のレタス産地でもあるとか。周囲の自然とも調和した雰囲気は一見の価値あり。ぜひ足を運んでみてください。
スポット 5:地元の人々に愛される銘菓をお土産に
白栄堂 柳町本店(香川県観音寺市)
ダイナミックな『豊稔池堰堤』を堪能した後は観音寺市を約20分ほど北上。有明浜の白砂に描かれた『銭形砂絵 寛永通宝』の近くにある1960年創業の和菓子屋さんへと向かいましょう。ここには、ぜひお土産に選んでもらいたい和菓子があります。それがこちらの『白栄堂』による銘菓「観音寺」です。
『白栄堂』には、今回の目的地である「柳町本店」のほか、吉岡町にある「吉岡店」と栄町にある「栄町店」がありますが、せっかく観音寺市まで来たのですから、本店に行ってみてください。現在の「柳町本店」は、観音寺柳町商店街のアーケード撤去と道路拡張工事に伴い、2005年の秋に誕生した四代目の店舗ですが、旧店舗にあった和田邦坊氏の作品を随所に配置した素晴らしい空間となっています。ちなみに、和田邦坊氏は香川県琴平市出身の時事漫画家・小説家、画家、デザイナーなどで知られる才人。よく知られているのは、第一次世界大戦で儲けた船成金が、暗い玄関で靴を探している女中に、お札を燃やして「どうだ明くなったろう」と自慢げに声をかける船成金を風刺した作品です。歴史の教科書などで見たことがある人も多いのでは。なお、本店にはモダンで落ち着いた雰囲気の茶房が併設されており、コーヒーや紅茶、抹茶に甘いお菓子を組み合わせ、ゆったりと過ごすこともできますよ。
こちらが銘菓「観音寺」。別名「観音寺饅頭」と呼ばれており、地元の人たちは“かんまん”と略して呼ぶことも多いそう。それだけ地域に根付いたお菓子なのでしょうね。丸と角が合わさったシンプルな焼き印は、有明浜の白砂に描かれた『銭形砂絵 寛永通宝』に由来するもので、丸は「円滑」、角は「質実剛健」を表現しているとウェブサイトに書かれていました。
しっとりとした味わいの特製黄身あんをカステラのような洋風の生地で包み込んだ「観音寺」。和菓子と洋菓子、両方をつくってきた『白栄堂』ならではの和洋折衷のモダンなお菓子として、地元の人々を中心に愛されています。賞味期限が短く、あまり日持ちしないため、以前は知る人ぞ知る観音寺市の銘菓でしたが、度重なる熱いリクエストに応えて、現在では通信販売も行われるようになりました。それでも、やはり実店舗を訪れて購入するのが一番です。徳島と香川を巡った旅のお土産にぜひ。
瀬戸内Finderフォトライター 重藤貴志
関連地域
徳島県
四国八十八ヶ所のスタート地点となる徳島県。東西を山に囲まれ、扇状に広がる徳島平野、その先に広がる瀬戸内海。海の幸、山の幸に恵まれ、新鮮な食材を楽しむことができます。また目を楽しませてくれるのは本場の「阿波踊り」。見て楽しむだけでなく、観光客も参加して楽しむことができるのも魅力の一つです。瀬戸内海が魅せる鳴門の渦潮や、秘境祖谷のかずら橋、大歩危峡の川下りなど、徳島の自然も満喫してください。