アート・文化

現代建築とごみ処理場の美しいコラボレーション『中工場』/広島県広島市

現代建築とごみ処理場の美しいコラボレーション『中工場』/広島県広島市

私たちの暮らしと切り離せないごみ処理場。汚れやにおいなどのマイナスイメージを抱きがちですが、広島市には美術館みたいにモダンなごみ処理施設『中工場』があります。この画期的な建築のワケは? 設計の意図は? 工場見学レポートとともにご紹介します。

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「平和の軸線」の延長線上に建つ施設

原爆投下という悲しい歴史を持つ広島市。戦後「平和の象徴の地」として、市内に整備されたのが、建築家の巨匠、丹下健三氏が設計した平和記念公園です。中工場はこの平和公園から海側へ伸びる吉島通りの南端に建ちます。

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施設内に入ってまずびっくりするのが、ごみ処理場のイメージを覆す2Fの通路『エコリアム(見学自由)』。左右のガラス越しに稼働中の装置を眺められ、通路は海側のデッキへ通り抜け可能。メタリックな設備と植栽の緑が絶妙に融合した、不思議な空間です。

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実はこのエコリアム、平和公園とも深いかかわりが。丹下氏が広島復興の基本計画とした「平和の軸線(原爆ドーム、原爆慰霊碑、平和記念資料館を同一線上に並べた都市軸)」の延長線上に設計されているのです。
それもそのはず、中工場プロジェクトを手がけたのは、丹下研究室で学んだ建築家の谷口吉生氏。「平和の軸線」構想をしっかり受け継いでいるんですね。

映画『ドライブ・マイ・カー』のロケ地に

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中工場は、第74回カンヌ国際映画祭で日本映画初の脚本賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』(監督 濱口竜介、原作 村上春樹)のロケ地にも選ばれています。映画内ではドライバーの渡利みさき(三浦透子)が、思い出の場所として、主人公の家福(西島秀俊)に中工場を紹介し、「平和の軸線」の話をしています。

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ロケに立ち会った中工場 次長の惣本清隆さんは、「西島秀俊さんは同じ人間、同い年と思えないくらいカッコよかった。男の余裕を感じました(笑)」と話して下さいました。

見学の価値あり! 工場内部は迫力満点

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いよいよ今回の取材の目的、ごみ工場内部の見学へ。見学ルートに沿って、収集車がごみを「ごみピット」に投げ入れる「投入ステージ」、ごみピットに溜められたごみをかくはんして焼却炉まで運ぶ「ごみクレーン」、焼却炉やボイラーなどの運転・監視を行う「中央制御室」などを回ります。

中でも巨大な「ごみクレーン」が、わしっと大量のごみを掴む様子は圧巻。私たちが出したごみの末路を、まざまざと見せつけられている感じです。

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さらに中工場には、蒸気タービン発電機(ごみの焼却時に出る熱で蒸気を作り、その蒸気でタービンを回して発電するシステム)も備えられています。発電量は約37,000世帯分!電気の半分は工場内で使い、残りは他の工場に送ったり、電力会社に売電したりしているとのこと。エネルギーのリサイクルまでしっかり考えられているのです。

中工場で働くようになって、「ごみ出しの意識が変わりました」と話す惣本さん。ごみ処理場を見ることで、分別や減量について考えてくれる人が増えると嬉しいそうです。

河口沿いの敷地は開放的な公園として整備

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見学をひと通り終えて、広島湾を一望できるデッキに出てみました。気持ちの良い潮風を受けながら工場を振り返ると、巨大な白い煙突が。でも、煙やにおいは一切感じられません。ごみの焼却時に発生する有害物質を、各種装置で取り除いているからだそうです。

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2Fデッキは、河口沿いに整備された公園「エコアシス」と階段でつながっています。降りてみると釣り人がちらほら。辺りはとてものどかな光景です。

この海の自然を最終地点に考えられた広島市の「平和の軸線」。そのシンボルのように建つ中工場。建築好きな方はもちろん、そうでない人もきっと満足できる穴場スポットです。都市とごみ処理場の関係、広島市の歴史や街の成り立ちなどに、思いを巡らせてみてはいかがでしょう。

瀬戸内Finderフォトライター FUMIYO

※感染症対策に配慮した上で撮影を実施しています。

関連地域

広島県

「嚴島神社(宮島)」と「原爆ドーム」という2つの世界遺産を有し、国内外から多くの旅行者が訪れる広島県。広島風お好み焼き、牡蠣、レモンといった定番グルメから、化粧筆の代名詞ともなった熊野の筆づくり、かつての軍港の姿を残す呉の街並み。根強いファンが多い地元球団やサッカーチームの観戦も見逃せません。また近年では、サイクリストの聖地「しまなみ海道」や、連なる島々を飛び石に見立て名付けられた「安芸灘とびしま海道」など多島美景観を実際に体験・体感できる観光も人気です。